クラウドファンディングで制作費の一部を出資してもらい制作された話題作。物語は戦時中、広島の呉に生きるすずさんを中心に描かれています。前半はほのぼのとした庶民の暮らしが描かれていて戦時中の話ということを忘れてしまいそうになります。ですが戦争中であることを思い出させるシーンや言葉でハッとします。
生活は厳しく、戦争の色もいよいよ濃くなっていく。そんな中でも小さな幸せを噛みしめながら生活する人々の暮らしが丁寧に描かれています。終戦も近く、呉への攻撃も激しさも増していく中、晴美の死や右手を失う負傷など大切なものをなくしていく毎日。いよいよ広島に原爆が投下され終戦を迎えたその時、今まで信じていた戦争の本質を悟り泣き叫びます。
戦後、呆然とする人や力強く生きようとする人々、これから起こる希望と絶望をさりげなく表現しています。広島から逃げてきて行き倒れていたのが自分の息子だと気づかなかったというエピソードには震えました。広島で戦争孤児になってしまった子供を家に連れ帰って一緒に暮らすことに。空襲の心配がなくなった呉の町の夜に灯りが戻ってくる。戦後の暗闇にも希望という灯りは点るのだと、人々はみな不幸な出来事にもけりをつけて前に進んでいくのだと思わせてくれます。
一緒に暮らすことになった子供の成長や暮らし、エンドロールで描かれるリンの物語。主人公のすずさんだけじゃなく、それぞれの人にそれぞれの物語があり、みな生きているのだと思うとグッときます。